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対談 阿藤智恵 ✕ 大鋸一正

 誤解されるリスクを引き受けなければ、言葉が出てこない場所

 

阿藤 集団創作ははじめてとのことですが、初体験のご感想は?

 

大鋸 集団創作が楽しいということは、学生の頃に友だちの映画制作の手伝いをして、何となくわかっていました。ですがそれは、あくまでお手伝いであって、自分が作品の重要な部分を決めていかなくてはいけないとなると、やはりプレッシャーを感じます。他の方がアイデアを出してくれたりサポートしてくれたりするので、何とかやっていける状態です。

もともと作品の意図などを説明するのが苦手だから、個人作業である小説の執筆などをしているのであって、指示出しに向いてないのは本人も周りも承知の上です。創作集団として未だに崩壊していないのは、メンバーが粘り強く耳を傾けていてくれるおかげです。

阿藤さんは、これまでに演じ手からセリフや場面の意図を質問されて、困るようなことはありませんでしたか?

 

阿藤 ありますよ! いつものことです。

でも、どっちかというと質問にうまく答えられなくて困るのは素敵なことで、相談なしに作品の意図を故意にまげられると本格的に困るのです。そういうことあるのです。作品に対して根本的に全く好意や信頼をもってもらえないときですね。

 

大鋸 そうですか。うまく答えられなくて困ることは素敵なことなんですね。

今回、演じ手に意図を伝えるために、こう言ったらどう伝わるだろうか、ということも配慮できないギリギリのところで言葉を絞り出しています。「誤解を恐れないで」という言い回しがありますが、誤解されても構わない、のではなく、誤解されるリスクを引き受けなければ、どんな言葉も出てこないような場所で語り合っている感じがします。

非常に貴重な体験をさせてもらっています。

 

阿藤 素晴らしい。

作り手もみる人々も、誰もまだ体験したことのない、わずかに新しい場を創ることがげき作りだと思いますから、まさに、そうこなくっちゃ!です。

 

 

 

 テキストは完成している

 

阿藤 ご自身の小説を舞台化するというのは、どの時点でどういうふうに思いついたのですか。

 

大鋸 せっかくなので複数の表現形式をまたぐようなものをやりたいという気持ちがありました。

依頼があってすぐの段階で、それならば、既に完成している、しかも自分で書いた「小説」を用いれば、その変化が顕著にわかるのではないかと考えました。そうすることで、「映画」「小説」「演劇」「トークイベント」「朗読」のそれぞれの特性が浮かび上がってくることを期待したのです。

自作を舞台化するにあたっては、物語をそのまま使うつもりはありませんでしたから、構造でもって面白いことがしたかったのです。

また、2幕目の方は短編集『O介』に収録されている「ドーナツ」のテーマを扱っているのですが、これは、書いているうちに、そうなっていることに気がつきました。

 

阿藤 実際に、やってみてどうですか?

 

大鋸 とてもうれしいのは、演じ手が小説と真剣に向かい合ってくれて、そこにある面白さを汲み出そうとしてくれていることです。

もうひとつ、自分が書いたものでも一旦出来上がった作品は、もう作者の手を離れていて、別の命を生きている、ということを改めて感じました。切り込もうとする当の作者に、自分が意図したもの以外のものを突きつけてくる。ある意味、非常に恐ろしい作業です。

台本の依頼をくださった際にイメージしていたものと、出来上がってきた台本はかなり違ったものでしたか?

 

阿藤 そうですね。でも、そのイメージというのは、「私なら例えばこんなものを書くかな?」というような雰囲気のもので、大鋸さんは私には予測できないものを書かれるだろうというイメージもあったのです。だから、イメージ通りとも言えるのです。

 

大鋸 なるほど。現在進めている台本について、どうお思いですか?

 

阿藤 大鋸さんの小説に対していつも感じているなんともいえない「むず痒さ」みたいなものを見事に醸し出していると思います、イライラするというかスッキリしないというか、でもその必然性も感じられるので、私はとても惹かれます。何度読んでも読み捨てにできないひっかかりを感じる。たまらない魅力ですよね、たぶんそれって。

 

大鋸 自分でもよくわからないものを書いていますから(笑)。

ですが、今回、「テキストは完成している」という直感がとても強くて、演じ手に質問されたことでも、内心は、そこまで考えてなかったなあ、と思っていても、不思議なことに、テキストを読むとちゃんと答えが書いてあるんですね。

また、はっきりとしていなかったものが、質問されることで形になる、作品の意図そのものが稽古場で作り出されているような感じすらします。

何という頼りない作者でしょう(笑)。

 

阿藤 頼りない、などということはないのでは?

頭でわかってて作家が明晰に説明できることだけで成り立つテキストだったら、みんなで何ヵ月も真剣に取り組むには薄っぺらすぎるでしょうし、観るに足るげきになりようがない気がします。

説明できなくても全て書かれてあるという感覚があるかどうかだけが作家の責任で、それがあれば議論に耐えるもの、他の人たちにとっても取り組み甲斐のあるものとして信じて取り組めばよいと思います。

 

 

 

 世界を掘り起こす

 

大鋸 今回は演じ手にも演出家がいて、全員で意見を出し合って演出を決めていくような進め方になっています。そもそも僕が演劇に参加するのがはじめてということで、メンバーに台本のイメージを伝えると、それを形にしてくれます。

今回のメンバーについては、どうですか?

 

阿藤 一筋縄でいかない大鋸作品に取り組むには、ベストメンバーといえる顔ぶれではなかったでしょうか。大鋸さんには心身ともに厳しい日々だと思います。倒れないでください!というのが私の目下いちばんの願いです。

 

大鋸 台本を書くのは思ったより大変でしたが、気に入ったものができてとてもうれしいです。

今はそれを他のメンバーといっしょに読み解いて「えんげき化」する作業を進めているのですが、これはこれで、なかなかにしんどい作業です。しかし、世界を掘り起こしている感じがします。

倒れてなんかいられません。

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